あなたはゲームをプレイしているときに「どうして自分はゲームをするときにバグをすぐに引いてしまうのだろう?」と感じたことがあるだろうか。自分はバグを引くことが少ないという人でもラグや回線落ちといった不具合がやたらと頻繁に発生するというトラブルを経験したことがある人も多いだろう。あるいは、ゲームの仕様の範囲で発生する理不尽なマッチングの連続や目的のアイテムに限ってなかなか出現しない現象(いわゆる物欲センサー)はある程度ゲームをプレイしたことがある人ならば誰もが経験したことがあるのではないかと思う。なかには本当に運が悪くそういった宿命を背負わされる人もいるかもしれない。しかし、こういった経験をしたことがある人が多く存在すると仮定するならばそのすべてが単なる偶然であると考えることは難しい。もちろんゲームによっては開発者によって意図的にプレイヤーに不都合な現象が生じやすく調整されているものもあるとは思う。とはいえ世の中そんな調整がされたゲームばかりではないだろう。では、なぜ多くの人がこういった体験をするのか。ここではそれについて考察していきたい。

超常現象や何者かの陰謀である可能性
こういう話を聞いたことがある。ホラーゲームの実況プレイを専門に配信している配信者が立て続けにバグに遭遇した際に心霊の影響でゲームのバグやPCの不具合が発生しているのではと視聴者から多くコメントされたのだ。もちろん、それらのコメントをした人たちのほとんどは実際に霊や呪いといったものの影響でそういった現象が発生しているとは思っておらず、冗談交じりにコメントを書き込んだものと思う。しかし、こういった霊障のようなものは実際に起こりうるのだろうか。これに関してはYESともNOとも言い難い。なぜなら、霊や呪いといったものの存在を肯定あるいは否定する十分な科学的証左が今日までに示されていないからだ。霊や呪いが存在することの根拠とされる事例はインターネットやSNS上に溢れている。だが、それらは総じて科学的に十分な証拠とはいい難く、霊や呪いを証明できるだけの科学的証左は現状与えられていないと見るのが妥当であると思う。一方、霊や呪いが存在しないことに対する証明は悪魔の証明であり、これを科学的に行うことは容易ではない。したがって、霊や呪いによってゲームの不具合が発生しやすくなるようなことはあり得るかという問いの答えは分からないと答えるよりほかないであろう。
では、こういうのはどうであろう。政府や存在が公になっていない組織などが何らかの目的を達成するためにゲームに対して意図的に操作をしている、あるいは意図せずに影響を与えているという説である。おそらく多くの地域ではインターネット上のデータの検閲や規制などは普通に行われているし、以前に比べ最近はゲームのプレイ人口も増加したことから社会実験などの一環としてゲームが利用されていても不思議ではない。しかし、そういったものが広く行われていたとしてそれらがゲームのプレイを大きく妨げるほどの影響を引き起こすかと言われれば疑問である。なぜなら、これらがゲームの開発者の公認で行われているとすれば、当然ゲームのプレイに影響が出ないように開発チームが調整を行うであろうし、逆に公認でなくこういった操作が行われていてゲームの不具合が多く報告されているならば、少なからず明るみになるケースが存在するはずだからである。一方で一個人を狙っての操作であると仮定すればゲームの開発元に知らせていなくても問題にならない可能性も高いだろう。しかし、その場合には一個人を狙ってそういった操作を行う必要性があるのかという別の疑問が生まれる。さらに数多くいるゲームプレイヤーのなかから一人だけ選ばれるターゲットが自分である可能性を考えるとその確率は極めて低いように思える。
ここで示したような霊障や陰謀といった説は完全に否定することは難しく、ごく限られた範囲においては実際に起こっている場合もあるのかもしれない。しかしながら、これらが多くのケースにおいてバグなどの原因となっているとは考えにくい。
プレイ環境の問題である可能性
プレイ環境は、上で触れた霊障や陰謀に比べずっと現実的で一般的なバグの要因として考えられるだろう。もし明らかに他人に比べてゲームの動作がおかしいと感じるならば、これを原因として真っ先に疑うべきであると思う。
プレイ環境が原因でゲームの不具合が発生するケースは多岐にわたると考えられるが、具体的には使用しているGPUなどのハードまたはOSや常駐ソフトウェアなどとメジャーなゲームエンジンとの相性が悪く不具合が発生しているケース、PCやインターネット回線の性能が一般的なゲームをプレイするうえで不十分であるケース、またはOSの設定がゲームプレイに適していないケースなどが考えられる。プレイ環境を最適化することは容易ではないが、ゲームの不具合に悩まされているのであればこれらを一度見直し、改善を試みる価値はあるように感じる。
また、PCや筐体が故障していないにもかかわらず、以前は正常に動作していたゲームが最近になって急に正常に動作しなくなり、しかもその状態が長期間続くような場合にはコンピューターがクラッキング(俗にいうハッキング)されている、あるいはコンピューターウイルスに感染している可能性があるかもしれない。クラッキングやウイルスの脅威を過剰に恐れる必要はないが、不安であるならば一度ウイルスチェックを実施してみるとよいだろう。使用しているOSがWindowsならばOS標準のウイルス対策ソフトウェアでもスキャンを行うことができるため、まずはこれを実行してみるのが良いだろう。また、それでも不安が払拭できないのであればウイルスチェック専門の業者も存在するので、そういったサービスに頼ってみるのも悪くないかもしれない。
プレイヤーの癖による問題の可能性
上で挙げたものとは別にプレイヤーの癖に起因してバグが発生しやすくなっているという可能性も考えられる。例えば、面倒くさがりな性格の人であればゲーム内での移動中にマップをショートカットしようとして開発者が想定していない領域に立ち入りスタックなどのバグが発生しやすくなるといったことは充分に考えられる。
あるいはそもそも好んでプレイしているゲームがバグの発生しやすいゲームに偏っているという可能性もある。一例として低予算のインディーズゲームなどを好んでプレイしている場合を挙げると、そういったゲームはデバッグ等にかけられる費用も限られているため比較的バグが残されている可能性が高く、バグに遭遇する確率も当然高くなるであろう。
心理的な問題の可能性
ここまでは、実際にゲームをプレイするうえでの不具合が発生しやすくなる要因について考察してきた。しかし、これらの限定的な要因ではとりわけ物欲センサーのような現象を極めて多くの人々が経験する理由を説明できない。
では、こういうことは考えられないだろうか?実際にはゲームをプレイする上で自身にとって不都合な現象はさほど多く生じていないが、多く生じていると勘違いしているという説である。簡単に思いつくのはゲームにおける不具合等を過剰に意識しすぎているためにそれらに遭遇しやすいように感じてしまっている可能性だ。しかし、単に過剰反応とは言えないケースも多くあると思う。ここからはどのようにしてゲームの不具合等に対する誤認識が起こるかについて考えていきたい。
確証バイアスというものをご存知だろうか?人間にはある仮説を立てた際にその仮説が正しいことを示す証拠ばかりを集め、逆にその仮説を否定する情報を無視する傾向がある。この傾向のことを心理学で確証バイアスと呼ぶ。この確証バイアスがゲームにおける不具合や理不尽に思える現象に対する認識にも関わっているのではないだろうか。
例えば、スマホゲームのガチャを例にとってみよう。ガチャシステムを採用しているスマホゲームをプレイしたことがある人の多くは、欲しいキャラクターに限って何回ガチャを回しても出現せず、逆に同じ出現率の欲しくないキャラクターが何度も手に入るといったことを経験したことがあるのではないかと思われる。そして、ガチャでは欲しいキャラクターは何故か出現率が下がるというように認識してしまいがちであるように思う。しかし、冷静に考えてみればこのような現象が発生するのは当然である。なぜならば、ガチャを引く際に狙っているキャラクターは大抵の場合1~2体多くとも5体程度あるのに対し、同程度の出現率のキャラクターは数十体用意されているというような場合がほとんどであるからだ。したがって、要らないキャラクターばかりがガチャで出現するのは必然だが、確証バイアスによって本来の確率は無視され、「要らないキャラクターが何回も出た」、「欲しいキャラクターはなかなか出ない」という事実に対してばかり目が向けられることになる。そうして、結果的に自分はガチャ運が悪いので特定のキャラクターを欲しいと思ってガチャを引くとそのキャラクターは出ないというような結論に至ってしまうのではないだろうか。
もう一つ例を挙げてみる。PvP形式のオンラインゲームなどをプレイしたことがある人の中には肝心な時に限ってゲームにラグが多く発生するというような経験をしたことがある人もいるのではないだろうか。ゲームのラグはネットワーク環境やマシンの性能によるところが大きく、また、ゲームによっては重要な局面ほど計算量や描画量が増え処理落ちが発生しやすくなるといったことも実際に考えられると思う。一方で、この例においても確証バイアスが関係している可能性も十分にあると思われる。重要な局面でたまたま偶然発生したラグを他の局面で発生したラグよりも強く認識してしまうため、重要な局面であるほどラグが発生しやすいと感じるのだ。しかし、この例ではほかの認知上のバイアスも働いているように思う。人間は失敗した場合に自身にその失敗の原因があると考えるとストレスが大きくなるため、これを避けようとする傾向にある。つまり、このケースにおいてはゲームで敗北した場合に自分がプレイミスをした、あるいは単に自分のプレイングスキル不足が原因で敗北したと考えると精神的な負担が大きくなるためこれを回避するために敗北したことには別の原因があると考える。そして、その一つの原因としてゲームにラグが発生したというものを挙げ、だからさっきは負けても仕方がなかったというように思いこもうとする。こういった、心理的な効果も相まって重要な局面ほどラグが発生しやすいというような認識が生まれやすくなっているのではないだろうか。
確証バイアスの他に心理学の用語で生存者バイアスというものもある。
第二次世界大戦において生還した飛行機を分析した研究者は、飛行機の損傷が多かった部位を補強することを薦めた。しかし、統計学者のエイブラハム・ウォールドはこれに対して、分析されたデータは生還した飛行機しか考慮されていないと主張し、損傷が少ない部分を補強することを提案した。つまり、損傷が少ない部位はそもそも損傷した際に帰還することが難しい部位であるというのである。これは、生存者バイアスの一例であるが、これと似たようなことがゲームのプレイにおいても起こっているのではないかと推測する。
一般にバグや仕様上の問題が少ないゲームであるほど短時間でプレイを諦めるユーザーは少ないと考えられる。すなわち長時間プレイされる割合が高いことが予想される。しかし、一方で一つのゲームを長時間プレイすればするほどバグやその他のゲームプレイ上の問題に遭遇する確率は当然高くなる。したがって,どんなゲームであっても、一定回数以上そういった問題に遭遇する確率は低くなりにくいことが考えられるだろう。この傾向はほぼ全ての人に当てはまると思われる。しかし、上で取り上げた確証バイアスと相まって、この傾向を自身だけに生じているものと誤認識してしまい、自分がゲームをプレイしているときにだけ不都合な現象が起きやすくなっていると認識してしまっているという可能性が考えられる。
また、こういったことも考えられる。無意識にゲームにおける複数の不具合を関連付けて捉えることでそれらを強く意識してしまうという説だ。
人間は物事を関連付けて意識する傾向がある。例えば、たまたま靴紐が切れた日に親が交通事故にあったとしよう。この場合、靴紐が切れることはあまり縁起がよいとされないことからも、これらのまったく関連性のない出来事を関連付けて、「靴紐が切れたから親が交通事故にあった」というように意識してしまう人が少なからずいるように思う。靴紐が切れること自体はあまり重大な出来事でないであろうから、もし、交通事故が起こらなかったなら靴紐が切れたという事実は記憶に残りにくかったかもしれない。しかし、これらの2つの出来事が偶然重なることで「靴紐が切れたから親が交通事故にあった」というエピソードとしてより強く記憶されると推測される。
これと同じようにたまたま連続して発生したお互いに関連性のないゲームの不具合を関連付けて意識してしまうことで脳により強く記憶され、あたかも自分は高い確率で不具合に遭遇しているかのように錯覚してしまっているという可能性もあるのではないだろうか。
いかがであっただろうか。実際にゲームをプレイしていくうえでバグなどの問題がなぜ発生しているのかを完全に特定することは難しいと思う。ここに挙げたほかにも様々な原因が考えられるだろう。しかしながら、この考察が読んだ方にとって少しでもそれらの理不尽に向き合うための役に立ち、ゲームをより楽しむための助けになればうれしく思う。



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